貴方も、私も、掌は血に塗れているというのに

 とろとろと緩やかな睡魔に身を任せて瞳を伏せる。
 掌に肉片がこびりついていたけれど、洗わなければと思うよりも襲う眠気が勝って、ぐらりと身体が揺れる。しかし、ここで倒れてはいけないという意識がぶれた身体の軸を戻した。倒れたら今以上に汚れてしまうのだ。
 それから繰り返された何度目かの葛藤で、後ろに倒れかけたとき、もう駄目だと思った。恐らく理性と言っていいのだろう、それは最早本能と欲に飲み込まれていた。
 どこか客観的に自分を見つめる私は、ゆっくりと真っ赤な大地に沈みそうになる自分を、愚かな獣だと睥睨している。悔しい気がしたが、どうにも、睡魔という原始的な欲に勝てない。
 諦めて、意識すら手放そうとした、そのときだった。

 自身が倒れていくことを伝えていた耳の奥の器官が、急にその働きをやめた。
 私はとうとう狂ってしまったのかと思うと同時、今度は表皮から温もりがつたわる。背中から伝わる柔らかな温度に、思わず手を伸ばしかけて、がしりと肘を掴まれた。そう言えば、私の手はお世辞にも綺麗とはいえなかった。恐らく後方の暖かさは、人間なのであろう。その、触れられるのを拒んだ冷静な態度に薄らと予想がつく。
 重たい瞼を無理矢理持ち上げれば、其処にあったのは相変わらず眉間に皺を寄せた、不機嫌そうな顔で、嫌でも頬の筋肉が私に笑みを浮かべさせた。




私に向けられた軽蔑の視線は
己に等しく向けられているのだと
私は知っている。